堀江守弘インタビュー:31歳、働くアスリートの素顔

はじめに

堀江守弘選手は、11年連続で日本一の座を守り続けるスキーオリエンテーリング界の第一人者です。その一方で、アークコミュニケーションズの社員としてフルタイムで働いています。*1

アークコミュニケーションズ代表取締役の大里真理子も、スキーオリエンテーリングでは堀江より長い競技経験があり、日本オリエンテーリング協会スキーオリエンテーリング委員も務めています。

今回はそんな大里のインタビューで、競技者そしてビジネスマンとしての堀江の素顔を掘り下げてご紹介いたします。

取材日:2013年2月

*1 現在はアークコミュニケーションズを退職していますが、所属選手として競技活動を継続しています。

目次

きっかけは、イタリアに行きたい!

堀江守弘

大里:私は堀江さんがスキーオリエンテーリングを始めるまえに、この世界に入っていたので、当時堀江さんという若い大学生が興味を持ってくれたのを非常に嬉しく感じたのをよく覚えています。まず最初に堀江さんとスキーオリエンテーリングとの出会いを聞かせてもらえますか?

堀江:高校では陸上部だったのですが、グラウンドよりも大自然の中を走り回るアウトドアスポーツに興味をひかれて、オリエンテーリングのサークルに入りました。それがきっかけで、冬に行うスキーオリエンテーリングというスポーツがあることを知りました。

大里:なぜスキーオリエンテーリングに挑戦しようと思ったのですか?

堀江:ジュニア世界選手権の日本代表に応募すると、イタリアで行われる大会に出場でき、格安でイタリア旅行ができるかもしれないという非常に不純な動機でした(笑)。本当に自分が行けることになるとは、思っていませんでした。

大里:えー、初めはそんなだったんですね(笑)。でも、いきなり海外遠征を経験したわけですが、その時のレースはどうでしたか?

堀江:雪国育ちでスキー技術もあったので、なんとかなるかと思ったのですが、さすがに甘かったですね(笑)。イタリアでの初レースは散々な結果でした。でも、いろんな国の一流選手と一緒に過ごした経験はとても楽しくて、それがスキーオリエンテーリングにのめり込んだ最初の理由かもしれません。「またこういう経験がしたい」「そのためにもっと強くなりたい」という思いが、今でも続けている原動力になっていると思います。

大里:スキーオリエンテーリングを知らない方のために、どんなスポーツか説明してもらえますか?

堀江:スキーオリエンテーリングは、クロスカントリースキーで、地図を見ながら雪原の中にあるチェックポイントを通過し、スタートからゴールまでのタイムを競うナビゲーションスポーツです。
例えるならば「大自然の中でやる宝探し」のようなスポーツですね。しかし、宝探しだと運の有り無しが大きく関係しますが、スキーオリエンテーリングではゴールに到達するために自分でルートを考えなければなりません。考え抜いたルートを一生懸命にナビゲーションし、やっとチェックポイントを見つけたときの喜びは、スピードや技術レベルに関係なく、誰でもこのスポーツで味わえる醍醐味だと思います。
さらに、冬の大自然の中、白銀の世界で行うところも楽しさを引き立てます。

大里:それに、堀江さんがイタリアに行った時のように世界大会が近いことも魅力の一つですよね。

堀江:はい。マイナーな競技だからこそ、世界が近く、少し頑張れば日本代表を目指せるスポーツです。マスターズもありますので、年齢に関係なく、誰でも世界に行けるチャンスがあります。世界大会に行くと、さまざまな国の一流選手と交流できるのも魅力です。

大里:そうやって世界に触れてみて、自分の中で意識が変わったことはありますか?

堀江:私は始めて2年目に、再び世界選手権に連れていってもらったのですが、そこでは涙が出るくらい悔しい体験をしました。表彰式ではいろいろな国の選手が笑顔で表彰台に並ぶのですが、日本人は誰ひとりとしてそこに乗れません。せっかく日本代表として来ているのに、日本人同士でビリ争いをしている状況が、非常に悔しいと思ったのです。優勝できなくても、せめて表彰台に上れる力をつけて、「日本人でもここまでできる!」ということを証明したいと強く思いました。

美女に囲まれたスウェーデン生活?

大里:世界に追いつくために、それから具体的にどういうことをしたのですか?

堀江:大学在学中に、日本の大会で優勝できるまでになりました。しかし、世界との差はまだまだ大きく、「スキーオリエンテーリングで世界と互角に戦いたい」「世界の上位に食い込みたい」という気持ちが強くあり、2年間のスウェーデン留学を決意しました。

大里:スキーオリエンテーリング委員会の立場からすると、堀江さんの決断は大きな驚きでした。でも、そうまでしてパイオニアとして道を極めようとしてくれる堀江さんを「委員会のみんなで応援しよう」ということになりました。留学してみてどうでしたか?

堀江:2年間、毎日が合宿のような生活でした。周りはみんなクロスカントリースキーを小さなころからやってきた強者(つわもの)ぞろいで、私はクラスについていくのも大変な劣等生でした。それでも毎日の練習を地道に、誰より時間がかかっても最後まであきらめずにメニューをこなすことで、レベルアップしていきました。スキーの技術だけでなくオリエンテーリングの技術も大きくレベルアップできたと思います。現在の自分の"11年連続日本一"という実績は、やはりここでの経験が大きな力となっていると思います。

大里:現地ではスウェーデン語だったんですよね。

堀江:はい。全くスウェーデン語ができない状態で留学したので、非常に苦労しました。最低限の情報、例えば「今日は何のトレーニングをするか、どういうウェア、装備を準備して行ったらいいのか」とか、「何時にどこに行けばいいのか」だけは英語で聞いていましたが、実際には何をするのかもよく分からない。そのうち、見よう見まねと、耳から徐々に覚え、最終的には日常会話ならば問題なくできるようになりましたが、初めは不安だらけな状態のまま無我夢中で過ごしていました。

大里:日本のスキーオリエンテーリング委員会の私たちも、さぞかし大変な思いでトレーニングを積んでいるだろうと心配していたのですよ。でもある時、堀江さんから「こんな感じで練習しています」という写真が数枚送られた中に金髪の美女に囲まれた堀江さんの写真があって。「あいつはスウェーデンでスキーの練習と言いながら、こんな美女たちと一緒に楽しくやっているのか」と嫉妬の嵐に……(笑)。実際はどうだったのですか?

堀江守弘

堀江:そんなこと言われてたんですか(笑)。今思えば確かに美人は多かったですけど、でも、そんな余裕は全くなかったです(笑)。

大里:当時、たまたまスウェーデン人や北欧の選手と話す機会があって、そうした時に堀江さんに対する賞賛の声が多く聞こえてきたのですよ。「東洋から一人で来て、身体も大きくないのにすごく頑張っている」とか、「本場で強い選手が大勢いる中でも、ちゃんと成績を残している」とか。これを聞いて、すごく嬉しかったですね。

日本での練習、そして仕事との両立

大里:スウェーデンから日本に戻ってきてからは、どうやって競技生活を送っていたのですか?

堀江:24歳で日本に戻ってきてからも、トレーニング中心の生活を続けるため、自分でインターネットビジネスをやりながら遠征費を稼いで、競技生活を続けていました。
しかし、徐々に「このまま一生、競技中心で生活していっていいのか?」「ビジネスマンとしてのスキルも必要なのではないか?」という迷いが心の中で大きくなり、ビジネス界の先輩に相談しに行きました。その一人が大里さんです。

大里:トップアスリートの人は一途で、世界を目指すのか、そうでなければまったく何もしない、というような両極端で考える人が多いように思います。実は堀江さんもそれに近いところがありましたね。私が相談に乗った時も、ビジネスマンになることにはすごく賛成したのですが、堀江さんは「そうしたら、スキーオリエンテーリングはやめます」という反応でした。私は、それはすごくもったいないことだと思ったのです。スキーをしながらビジネスをする道があってもいいと考え、それをなんとか応援できないかと思って、むしろ堀江さんに強く入社を勧めました。
実際には、勤務時間を午後にシフトして、「午前中は練習、午後は仕事」という勤務体系にしてみたのですが、練習の調子はいかがですか?

堀江:とても好調に進んでいます。雪上でのトレーニングができない分、河川敷で、ローラースキーを使った練習をしています。住居はトレーニング時間確保のために、河川敷近くを選びました。

堀江守弘

大里:東京で働くデメリットを少しでも減らせるように、住む場所を練習場に近いところにしたというのは正解ですね。そうやって午前中に運動して、午後から仕事をするわけですが、ちゃんと仕事に身が入っていますか?(笑)

堀江:正直言いますと、最初は会社で眠くなりました(笑)。特に頑張ってトレーニングしたあとは、マラソン大会のあとに会社に来るような状態ですから、午後は眠くなります。ですから、あまり午前中に頑張りすぎないよう、バランスをとりながらやろうと考えました。ただ、現在では体力がついてきたようで、ある程度以上のトレーニング量をこなしても、午後に支障はなくなりました。

“単一の強さ” より “複数を持っている強さ”

大里:堀江さんの現在の仕事を紹介してください。

堀江:主に、自社のマーケティングと新規事業で立ち上げた英語の大学紹介サイトの運営を担当しています。サイトを活用してアクセス数を増やし、引き合いや受注につなげるのがミッションです。私が担当してから、新しいサイトを三つ立上げ、インターネット経由の問合せと売上は、2倍以上になっています。

大里:その他にも、実際には色々やってもらっているので、仕事だけでもそれなりに大変だと思いますが、堀江さんが考える、競技を続けながら仕事をするメリットや意義は、何でしょうか?

堀江:バランスが取れた人生になるのではないかと思っています。仕事だけに偏らず、スポーツや趣味、家庭など、会社以外の生活とのバランスは大切だと思います。また体調の観点からも、適度なスポーツは仕事上でも家庭生活でもプラスになると思います。「世界を目指す」のではなくても、いろいろな人にスポーツをやって欲しいと思っています。

大里:こんなストレスフルな世の中に生きていると、私もバランスはものすごく大事なことだと思っています。"単一の強さ"より"複数を持っている強さ"の方が大きいと思っていて、だからこそ「ライフワークバランスが重要」と言われるのでしょうね。
企業としても、いろいろな人を包含できることが強さになるということです。
また、どんなことでも「道を極める」ことは素晴らしいことだと思います。堀江さんの場合は、それがたまたまスキーオリエンテーリングというスポーツでしたが、それがお料理や他のことでも良くて、そういうことを会社として応援したいと思っています。
日常生活のストレスが大きくなっている今、できるだけさまざまなこととの接点を多くして、自分をメンテナンスしていく力が必要になってくると思います。そういう意味で、堀江さんにロールモデルになって欲しいという期待があります。

堀江:はい。皆さんに支えられ、これからも頑張ります!

堀江守弘

インタビューを終えて

トップアスリートが「すごいな」と思うのは、一見平凡なことを平凡ではないくらい継続してできることだと常々感じています。
堀江さんは、スキーオリエンテーリングで目標を決めて、そこに行くためにブレークダウンしたマイルストーンを作り、それを一つずつ実行していく能力がすごく高いと思っています。ひとつひとつは一見大したことがないように見えます。もしかしたら、私たちにもできるのではないか、というくらいに。ただし、それを誰にもできないくらい継続してやり続ける能力がすごい。
仕事も同じで、一個一個の仕事は地味でたいしたことがなくても、その積み重ねが非常に立派な作品になったりしますから。そのプロセスをトップレベルで知っている強さというのは、仕事で活きないはずがないと思うのです。
これからも、スキーオリエンテーリングに仕事に、力を発揮してほしいと期待しています。

2013年2月27日
アークコミュニケーションズ 代表取締役 大里 真理子

最後に

アークコミュニケーションズの『堀江守弘選手応援サポーターシステム・ファンクラブ』をとおして、堀江守弘選手を応援してみませんか?

今後、壮行会などのファンイベントや、シーズンオフには堀江選手と直接話せる企画などを計画しています。堀江守弘選手と一緒にスキーオリエンテーリングを日本から盛り上げましょう!

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