対談記事

2020年7月

「不確実性の時代」を生き残る~継続性ある雑誌運営についてDIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集長に聞く

出版不況のなかでも増える定期購読者

大里:"出版不況"と言われて久しいですが、ここ最近の雑誌の売れ行きはいかがでしょうか?

大坪様:微増ですが、定期購読者は増えています。最新情報を取り入れた経営の教科書としてご評価いただけている成果だととらえられ、わたしたちも嬉しい限りです。

大里:それはすごいですね。コロナ禍の影響はどのようだったのでしょうか。

大坪様:4月と5月はコロナの影響で市販の部数は落ちました。弊誌は、東京や大阪など大都市の大型書店でお買い求めいただくお客さまが多いのです。今回のコロナ禍で書店の営業時間が短くなったことと、テレワークが進んで通勤日が少なくなった影響で売れ行きが厳しくなりました。しかし、6月になって戻り、全体として市販は横ばいをキープできています。

小暮様:アメリカのHBRではウェブサイトの活用が進んでいます。読者が興味をもちそうな記事をどんどんウェブに出して、そのなかから好きなものを選んで読んでもらうスタイルになっています。日本のDHBRでも、ウェブサイトに上げる記事の数を増やし読者も増えていますが、アメリカのHBRに追いつくところまでは行っていません。

3年前からアメリカでは、雑誌の発行回数が年6回になったため、全体的に紙媒体のコンテンツ量は減っています。それに従って、軽いテーマで短い記事が中心だったウェブに、大きなテーマで長い論稿が掲載されるようになりました。全体的に翻訳する量は増えていると言っていいと思います。

出版社ならではの編集に合わせて使いやすい翻訳に

大里:弊社の担当の齊藤には、御社に納品する翻訳を、通常の他社様に納品する翻訳とは違う対応にしています。

斎藤:普通の企業のお客さまの場合、アークが翻訳した文章がそのまま使えるように、と考えて翻訳の指示をしています。通常のお客さまは、できるだけそのまま使える文章が欲しいという意図で翻訳を依頼されることが多いからです。しかし御社の場合、アークが翻訳した文章をもとに、御社の編集によってさらにクオリティを上げるのがお仕事だと理解しているので、素材として使いやすい翻訳になるようにしています。

小暮様:確かに、わたしたちの編集の参考になるようにコメントをつけていただいているのは、とても使いやすく感じます。お手間になるとは思いますが、今後もこのようなかたちでお願いしたいと思います。

大里:アークの翻訳に対する率直なご評価はいかがでしょうか?

大坪様:実は先日、HBRから翻訳品質の抜き打ち検査を受けましたが、「エクセレント」という高い評価をもらいました。これは御社のおかげだと思います。

大里:ありがとうございます! それは、とても嬉しいご評価です。

記事テーマも事業もバランスが大事

大里:最後に、今のような厳しい時代に事業を継続していくための意気込みや方針についてお聞かせください。

大坪様:面白くない答えかもしれませんが、"バランス"が必要なのだと思います。編集会議では、若手の編集者から流行りのテーマを提案されることがありますが、売上を考えて、管理職としてバランスをとることがあります。「スタートアップ」などもエキサイティングなテーマなのですが、定期購読者のニーズを考えると少し躊躇します。もう一つバランスで言うと、若い世代の方に読者になっていただかないといけません。X世代やミレニアル世代の方は、SDGsや社会貢献にすごく関心を持っています。ここは編集部員もみな大好きなところなので、テーマに入れていきたいと思います。

大里:雑誌以外の部分ではどうでしょうか?

大坪様:書籍出版にも比較的多くの時間を割いています。DHBRから派生したマネージャー向けの教科書や、HBRが発行する書籍の翻訳書などです。また、HBRで活躍されている教授の原書を翻訳したりもします。さらに、新しい書籍が出版されると、その販促に向けてセミナーを開くことがあります。定期購読者の方には、デジタル(PDF)でも論文が読めるようにしています。今はコロナ禍のためにリアルなセミナーが開催できないので、オンラインで実施するセミナー(ウェビナー)にシフトしていこうと思っています。

また、会社としてはここ最近、『わけあって絶滅しました。』というような、以前だと扱わなかった分野の本が売れています。料理の本なども売れ行きは好調です。こうした不確実な時代には、出版社のポートフォリオとして、新しい分野を持つことは必要だと思います。しかし一方で、まじめで硬い本が売れなくなっているのは由々しき問題なのですが。

大里:今日のような非常事態になると、当たり前のように享受していた日常に対しても深く考えるようになります。こういう時だからこそ、本質を突いた硬い本を読みたくなります。そういう時に、読み応えのあるテーマについては書籍でじっくり時間をかけて読み、ライトなテーマについてはウェブでたくさん読むなど、愉しみ方を変えてさまざまな分野のコンテンツを深くも浅くも味わえるようになりたいですね。

貴社が新しいことをなさろうとする時にお声をかけていただけるのは、とても光栄に思っています。弊社としては、さらに御社のコンテンツに貢献させていただき、関係が継続していくことを切に願っています。
本日は貴重なお話をありがとうございました。

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