対談記事

2016年1月

世界を変えていく意志を持ったリーダーに貢献する−DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー

良い翻訳に欠かせない
日本語の豊かさと素直さ

大里:翻訳会社としては御社にできるだけ編集の負荷をかけないようにと思い、翻訳に工夫を凝らしています。とはいえ、雑誌作りにおいては編集を加えるケースが多いと思います。
その際、「DHBR」ではどういった観点でどのように編集を加えていらっしゃるのでしょうか。これは私どもにとっても、私どものお客様にとっても興味深いところだと思います。

小暮様:訳文に手を加える際のポイントは2つあります。
1つは説明が不足していると感じた部分に付加価値情報を足すことです。例えば、この略語、この人名は、そのままでは読者に伝わらないという部分について編集部で調べ、追記していきます。
もう1つは、文章を日本語らしく読みやすくし、内容がストレートに伝わるように変えることです。

齊藤:プロジェクトマネージャーとして御社の翻訳を担当させていただきながら、いつも驚いているのがタイトルの付け方です。私たちも翻訳者とともに、論文のタイトル、冒頭の翻訳には本当に力を入れているのですが......。

岩佐様:誌面が仕上がってみると、タイトルがまったく変わって出てくることもあるでしょう。

齊藤:はい。それもすごく印象的な言葉に置き換えられていて、「どうやったらあのタイトルに変わるんだろう?」と翻訳者とも話しています。
最近、印象に残っているのは「戦略人事」特集の論文タイトルの「shiny object」という表現です。「カタカナにしただけでは通じないよね」ということになり、どういう日本語に置き換えたらいいのだろう......とずいぶん考えましたが、御社が誌面で出した答えはもう一歩上をいくものでした。

岩佐様:最終的にはどういうタイトルになったんだっけ?

小暮様:「魅惑的な人事手法に飛びつくな」です。

岩佐様:あれは悩んだね。

小暮様:「shiny object」という言葉は、タイトルには使われているのですが、「HBR」の本文には、そんなに出てきません。しかし、論文で言いたいことを象徴している言葉ではあります。そこでなんと言い換えられるか考え、「誰もが飛びつきたくなるような魅力のあるもの」としてみました。
でも、魅力というよりももっと惑わされるようなニュアンスがいいと思い、魅惑的ということにして「魅惑的な人事手法」としました。

齊藤:なるほど。いつも小暮さんがそういった判断をされているんですか?

小暮様:各担当者全員がそれぞれにやっています。アークさんなり、他の会社さんから出てきたものを割り振り、みんながそれぞれに一生懸命、頭を悩ませ、タイトル会議を行っています。

大里:タイトル会議は、かなり時間をかけて?

小暮様:かけますね。

岩佐様:タイトルは正しい文章だからいいというものでもないんですよね。おもしろくなくちゃいけない。

小暮様:実際、どう編集するかの判断は編集者もいつも迷っています。これが正解!杓子定規には決められないので、試行錯誤の連続です。

大里:では、御社が望む良い翻訳とはどういったものでしょう?

小暮様:私は、翻訳は日本語力だと思っています。翻訳者の読書量や経験、知識が適切な表現を選ぶ能力と関係していて、訳文のうまい下手には日本語の豊かさがかなり影響すると思います。

岩佐様:僕の仕事は編集後の原稿の最終チェックなので、原文との付き合わせはしていません。ですから、僕のところにくる原稿が悪かったら、それは翻訳者のせいではなくて、編集者が悪いわけです。
その前提で言うと、良い翻訳は僕の友だちが冒頭を読んで「これ、おもしろそう」と感じること。そして、もう1つ言うと、僕は原稿を声に出して読むんですよ。すると、英語の構文が日本語として残っているような原稿は、発音した時に引っかかりがあって違和感があるんですよね。

小暮様:ゴツゴツしている翻訳ですね。これは編集時に手直しするのも大変で、できるだけ日本語として素直な翻訳だとありがたいですね。すーっと読める文章。繰り返しになりますが、そのためには日本語の豊かさが重要になってきます。
その点、アークさんの翻訳は素直さだけでなく、安定感があり、毎号助けていただいています。

岩佐様:「DHBR」のクオリティを保つためにもアークさんの協力が続いていくことを願っています。

大里:私たちとしては、御社の期待にさらに応えるためにも、定番の翻訳者にプラスして、新しい翻訳者を紹介することを齋藤に心がけさせています。

岩佐様:それはありがたいですね。どういった基準で探してくださっているんですか?

齊藤:重視しているのは、調査能力、柔軟性、情熱の3点です。
先ほどの特集のタイトル付けのお話からも伝わるように、「DHBR」は非常に多くの時間をかけ、情熱を持って編集をされています。ある意味、同じ感覚で翻訳をしていく翻訳者でなければ、同じ船に乗れないと私たちとしても考えています。その価値観を共有し、仕事に取り組む姿勢を過去のプロファイルよりも重要視しています。

継続して読み続けることで
ニュースの本質が見えてくる

大里:最後に、今回の記事を読んで「DHBR」に関心を抱いた方に向けて、「DHBR」を読むことで身につく力を紹介していただけますか?

岩佐様:僕は、応用力だと思っています。例えば、「ソニーが不動産ビジネスに参入しました」というニュースを目にしたとしましょう。そういった個別の経済ニュース記事は「DHBR」には掲載されていません。
しかし、「DHBR」を継続して読んでいると、「ソニーが不動産ビジネスに進出して何をやろうとしているのか」を類推することができるようになります。これは新しいビジネスモデルのあり方や有効なマネジメントの手法が、自然と頭の中に入ってくるからです。すると、日々のニュースが伝える内容の本当の意味がわかってきます。
「あの業界のあの戦略もじつは自分たちがやろうとしていることと同じだ」と。そんなふうにメタレベルでのつながりを感じられたら、おもしろいんじゃないかなと思います。

大里:そうですね。私も20代でビジネス・スクールに留学して、「HBR」を読んでいた頃に比べて、今の方がはるかに実務とひも付けながら読み込めている気がします。本日のお話をうかがって、さらに「DHBR」のページを開く楽しさが増えました。本日は、貴重なお話をありがとうございました。

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