対談記事

2021年1月

「行動するスポーツシンクタンク」を標榜する笹川スポーツ財団にスポーツ普及・振興の「プロの流儀」を聞く

公益財団法人笹川スポーツ財団は、一人ひとりが自分の生き方や興味関心に応じてスポーツを楽しむ"Sport for Everyone社会"の実現を目指して活動しています。新型コロナウイルス感染拡大や、それに伴う東京2020オリンピック・パラリンピックの延期など、日本のスポーツ界はかつてない大きな課題に直面しました。こうしたなか、笹川スポーツ財団は、科学的な調査・研究によって課題をわかりやすいデータや言葉に置き換え、それを元にしたスポーツソリューションとして提示しようとしています。アークコミュニケーションズは、こうした財団のブランディングをウェブサイト構築の面からお手伝いさせていただきました。財団の改革の旗手となった渡邉一利理事長とウェブ制作ご担当者の方に、スポーツシンクタンクの実態や今後についてお聞きしました。

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プロフィール
渡邉 一利  公益財団法人笹川スポーツ財団 理事長
成瀬 小太郎 公益財団法人笹川スポーツ財団 総務グループ長
竹下 克彦  公益財団法人笹川スポーツ財団 総務グループ 総務・広報チームリーダー
清水 健太  公益財団法人笹川スポーツ財団 総務グループ 広報チーム
大里 真理子 株式会社アークコミュニケーションズ 代表取締役
佐藤 佳弘  株式会社アークコミュニケーションズ 執行役員 Web&クロスメディア事業部長
柴田 真一郎 株式会社アークコミュニケーションズ Web&クロスメディア事業部 営業

生涯スポーツを普及啓もうする組織として誕生

大里:はじめに、笹川スポーツ財団さんについてご紹介いただけますか。

渡邉様:公益財団法人笹川スポーツ財団は1991年3月に誕生しました。当時は、文部省(現在の文部科学省)の競技スポーツ課が日本国内のスポーツ行政を管掌していました。同じ時期、財団法人日本船舶振興会(現在の公益財団法人日本財団)は、高齢化社会に向けて生涯スポーツ――今でいう「スポーツ・フォア・オール」、当財団では「スポーツ・フォア・エブリワン」と言っています――が大事になると考え、文部省と協議のうえで笹川スポーツ財団を作りました。

設立当初、まずは草の根スポーツを育成しようと考え、「スポーツエイド」と呼ぶ助成事業を始めました。また、市民にスポーツを身近に感じてもらうために、「スポーツ・フォア・オール国際フェア」などのイベントも開催しました。一方、スポーツの実態を毎年定点観測する必要があるという声が上がり、「スポーツライフ・データ」という調査を1993年にスタートさせました。これは現在でも継続しています。

大里:地方の自治体と共同で面白いイベントなども開催されていましたね。

渡邉様:はい。1993年には、「チャレンジデー」という事業を始めました。カナダ発祥のイベントですが、同じ人口規模の自治体同士が対戦形式でスポーツの実施率を競う、毎年300万人が参加する興味深いイベントです。ゲーム性があるイベントなので、自治体相互の物産の交換や、修学旅行先の交換のような、いろいろな交流や副産物がそこから生まれました。

また、1996年には、まだスポーツ白書というものが世の中に存在していなかったので、笹川スポーツ財団で作ろうということになりました。当初は5年に1度の発行でしたが、2009年以降は3年に1度発行するようにしています。

シンクタンクとドゥタンクの両輪

大里:貴財団のご説明の際に「スポーツシンクタンク」という一般には耳慣れない言葉が出てきますが、どういった内容の事業になるのでしょうか?

渡邉様:2012年に文部科学省から、その前年に制定されたスポーツ基本法に基づく「スポーツ基本計画」が発表されました。笹川スポーツ財団もこれに呼応して、研究調査活動を軸にした組織運営に大きく転換し、わが国でも唯一無二の「スポーツ専門シンクタンク(Think Tank)」として新しい一歩を踏み出すことにしました。

従来から築き上げてきたスポーツの実態調査やスポーツ白書の制作は大きな柱として残し、シンクタンクらしい組織内組織として「スポーツ政策研究所」を立ち上げ、国の政策に対して提言できるような活動を目指す事業を開始しました。現在は、財団の「ミッション」「ビジョン」を定め、それに基づいてシンクタンクとして調査・研究を行い、その結果から得たアウトプットを実践・実証する「ドゥタンク(Do Tank)」事業と合わせて活動しています。

大里:とても大きな目標を持つ事業と思いますが、どのようにそれらを実践していくのでしょうか?

渡邉様:調べていただくとおわかりになるように、笹川スポーツ財団の組織規模は非常に小さいのです。ですから、自分たちでできることは非常に限られています。そこで、どれだけ多くのネットワークをつくり、組織や人とつながり、それぞれの持ち味をお貸しいただきながら、世に貢献していくかが大切になります。

一般に「センターオブエクセレンス(※)」という言葉がありますが、当財団にはもともとリソースがありませんから、その代わりに「ネットワークオブエクセレンス」を活用させていただいています。笹川スポーツ財団がハブとなり、自治体やスポーツを推進する人、政治家などを横断的につなげてネットワークを作ってそれぞれのお力をお借りし、世の中に役立つことを実践していくという考え方です。

※ センターオブエクセレンス:優秀な頭脳や最先端の設備を擁する中核的な研究拠点のこと

メンバーの共通項は「スポーツに関わりたい」気持ち

佐藤:小さな組織ということですが、多彩な才能をお持ちの方がお集まりになっているとお聞きしています。みなさんは、どのようなご出自あるいはモチベーションで財団に加わったのでしょうか?

成瀬様:わたしは、財団設立2年目に入社しました。長年スポーツをやってきましたので、大学卒業後は「スポーツの振興に関わりたい」という漠然とした思いで入社しましたが、わたしたち以降は、「こういったことをやってきたので、この経験を活かしたい」など具体的な目標を持って入って来られる人が増えましたね。

竹下様:わたしは、広告代理店や出版社を経て財団に入職しました。当時は、東京マラソンのボランティア運営サポートなどの人材を募集していたので、それに応えるかたちで入りました。それまでの経歴がイベント運営や広報業務などで貢献できるのではないかと考えました。

清水様:わたしはグルメ検索サイトの会社にいて、まったくスポーツとは無関係の仕事をしていました。しかし、次はスポーツの世界に関わりたいという気持ちがあり、ウェブ企画や営業の仕事をやっていた関係から、スポーツ界で情報発信をしてみたいと考えて入社しました。

新型コロナウイルス感染拡大と東京オリンピック延期で緊急調査

大里:現在、新型コロナウイルスの感染拡大がスポーツ界に大きな影響を与えていますが、こうした事態に際して、財団として特に力を入れている調査や事業などはありますか?

渡邉様:わたしたちは、新型コロナウイルス感染拡大のような非常時に、人の行動や社会がどう変化していくのかを定点観測していこうと考えました。定点観測によって、もしまた新しい感染症が起きたときに、それが役立つ参考資料になると考えたからです。今年の5月と10月には、コロナ禍におけるスポーツの実態を調査しました。2021年早々にも第3弾を予定しています。

3月の調査結果から見えてきたことは、スポーツ活動をよくする人(週1回以上スポーツをする人)のスポーツ実施率はコロナ禍で下がりましたが、一方で月に1~2回くらいしか運動をしない人の実施率は、逆に増えたことです。

大里:コロナ禍では外出が減って、「人々はスポーツをしなくなったのではないか」と漠然と思ったのですが、事実は違うのですね。誤った思い込みをベースにすると、方針も適切なものではなくなってしまいます。調査の重要性を再認識しました。今年予定していた東京2020オリンピック・パラリンピックについてはいかがでしょうか?

渡邉様:東京2020オリンピック・パラリンピックに向けて、「日本財団ボランティアサポートセンター」という組織を、日本財団がつくりました。東京2020ではトータルで12万人のボランティアが必要になりますから、この人たちの育成や世の中の機運醸成の支援をするのが目的です。

しかし、コロナ禍が起こり、東京2020は1年延期となりました。ボランティアのみなさんは当然ながら不安にかられたと思います。そこで、ボランティアの方々を対象にアンケートを実施しました。その結果、ほとんどの人が1年延びても引き続きボランティア活動をしたいと感じていることがわかりました。

大里:スポーツボランティアの火が燃え続けているのは心強い限りです。