対談記事

2012年12月

ビジネス書翻訳のプロフェッショナルに聞く

アークの翻訳事業に伝わる有賀DNA

大里:『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』の編集の方に有賀評を聞いてみたところ、「とにかく日本語がうまい」というコメントをいただきました。そして、その秘密を分析すると、「語彙力」「知識力」「全体を見通す力」の3点が挙がりました。言い換えれば、「適切な表現を選ぶ能力がある」ということですね。

有賀様:同じ単語や表現をいつも同じように訳せばいいなら、翻訳ソフトで十分でしょう。なぜ人間が翻訳するのかと考えれば、「適切な表現を選ぶ」という努力が重要になってきますね。英和辞典や国語辞典だけでなく、類語辞典、英英辞典を引くと有益だと思います。特に英英辞典は、原語の意味を文章で説明してあるので、それを読むと一瞬にして疑問が氷解して訳語が思い浮かぶことが多いですね。これに対して英和辞典というのは、おおよその意味を手っ取り早く知るにはとても便利ですが、微妙なニュアンスや類語との違いまで伝えることを目的とはしていないでしょう。

大里:その豊富な語彙力というのは、どうやって身につけられたのですか?

有賀様:うーん、小さい頃から、本でもマンガでも、気に入ったものばかりを何度も読む癖があって、印象に残った言葉とかフレーズがあると、忘れたくないから線を引いたりしていましたね。そうこうしているうちに、少女マンガのセリフとかたくさん覚えてしまって(笑)。小学生にとっては、世の中知らない言葉だらけですから、新鮮な出会いが楽しかったのでしょうね。今でも、歌詞なども含めて、「素敵だな」と思う言葉やフレーズに接するとメモしたりしますが、これはもう仕事うんぬんというより趣味の世界かも......(苦笑)。

大里:翻訳者を志す人に、伝えたいことってありますか?

有賀様:そうですね、「文は人なり」と言いますが、「心を込めて丁寧に訳そうとしたものかどうか」という点がいちばん大切ではないでしょうか。この違いは読み手に確実に伝わるのではないかと思います。

大里:それは、英語力や専門知識とは違うのですね?

有賀様:ええ。すでに翻訳経験のある方、専門知識をお持ちの方、外資系企業で日常的に外国語を使っている方などもいらっしゃると思いますが、それらの経験や知識は、読み手を意識して丁寧に文章をつくろうとして初めて生きるのではないでしょうか。もちろん、英語力や日本語力も大切ではありますが、意識や姿勢の持つ意味はとても大きいと思います。

大里:アークが翻訳事業を始めたころ、有賀さんには、特に大規模プロジェクトの品質管理をどうすべきか、というところで多くの知恵をいただきました。翻訳用語集の監修やサンプル翻訳、翻訳後のフィードバック、翻訳品質責任は翻訳者に持ってもらうなど、それがトータルでの品質管理に大いに役立ちました。

有賀様:当時は経験が浅かった分、業界常識に捉われずに、「こういう方法がよいのではないか」と意見をぶつけ合っていましたが、それがかえってよかった面もあるかもしれませんね。

大里:実際に、翻訳者の仕事をチェックして修正を依頼するチェッカーとしても活躍してもらっていましたよね。あの頃の有賀さんにいただいたノウハウが、現在の弊社のクオリティを支えるベースになっていると言っても過言ではありません。有賀さんのDNAが伝わっている、と私は思っています。

有賀様:顧客はもちろん、社内のスタッフや翻訳者からのフィードバックも大切ですね。

大里:有賀さんと話していると、常に「顧客」という言葉が出てきますよね。私たちは、企業から仕事をいただいて翻訳しているわけですから、有賀さんが常に念頭におかれているクライアントニーズにしっかりと応える必要があります。これからも、この原点を大切にしていきます。今日はありがとうございました。