Column

2015年7月

第二回: イギリスの国語を超えた存在へ

アメリカの台頭と戦争

1945年5月8日、ドイツの敗戦が決まると、英国のチャーチル首相が国王とともにバッキンガム宮殿のバルコニーに現れ、歓喜に沸くイギリス国民に向けて手を振りながら戦争が勝利に終わった事を国民に伝えました。この模様はアメリカのラジオコメンテーター、エドワード・マロー(Edward R. Murrow)によってアメリカ国内に向けてもレポートされました。第二次大戦の終結。それは英語という言語にとってひとつの終焉と幕開けを意味します。これを境に世界に浸透する英語はイギリス英語からアメリカ英語に取って代わります。

アメリカの戦略的、経済的、文化的な意向は、英語を共通語とする UNESCO や NATO の様な機関、またExxon、Ford、IBM といった民間企業を通して、未曾有の勢いで世界に発信されていきました。これにより、母国のイギリスが影響力を弱めていく中、アメリカの力で英語は更に勢いを増していく事になりました。

米軍基地はイギリス、イタリア、フランス、ドイツ等にもできました。アメリカ軍が使う英語表現は俗的で生き生きとした表現が多いのも特徴でした。

ドイツ降伏後、同じく1945年の8月には広島、長崎に原爆が投下されました。これをきっかけに新たな英語表現が生まれます。

例)fireball(火球), mushroom cloud(キノコ雲), test site(実験場所), countdown(秒読み), fallout(放射性降下物、死の灰), fusion(核融合), fission(核分裂), chain reaction(連鎖反応), atomic holocaust(核戦争による破滅) など

日本は復興のためにアメリカから多くのものを取り入れ、日本人の生活の中にはアメリカのブランドがあふれるようになります。

例)Lucky Strike(ラッキーストライク), Marlboro(マルボロー), Budweiser(バドワイザー), Schlitz(シュルツ), Gillette(ジレット), Kodak(コダック), Maxwell House(マックスウェルハウス), Kellogg(ケロッグ), Coca-Cola(コカコーラ) など

戦後何万という英語表現(カタカナことば)が急速に日本語の中に入り込みました。また逆に戦争を機に日本語からアメリカ英語に入っていった言葉も様々あります。ひとつだけ例を挙げると honcho という言葉があります。

例)Who's the honcho on this project?

honcho とは日本語の「班長」で、英語では leader, boss という意味で使われます。

第二次大戦後は「冷戦」の時代に入ります。アメリカとソ連という2つの超大国によるイデオロギーの対立でした。Cold War という言葉は1947年から辞書に加わっています。ソ連や東欧諸国で反共産主義を推す地下組織は自分たちのマニフェストを英語で出す事で世界に苦境を訴えました。

2つの超大国が最初に衝突したのは朝鮮戦争(1950-1953)です。この戦争からも新たな言葉が英語に加わっています。

例) brainwashing(洗脳), chopper (ヘリコプター)

この戦争はニュース映画(newsreel)で広く報道されました。また1953年の停戦の数週間前に、イギリスではエリザベス2世の戴冠式が行われ、これは多くの国で人々をテレビにくぎ付けにしました。このころまでにはテレビ放送も少しずつ普及してきています。

アメリカの映画やテレビ番組は多くの国で楽しまれました。そこには掃除機(Hoovers)、ティッシュ(Kleenex)、コピー機(Xerox)をはじめとする、それまではなかった製品も登場するなど、アメリカの生活様式や文化はアメリカ英語に乗って人々を魅了しました。

戦争がきっかけでそれまで無かった英語表現が生まれる現象はその後も続きます。朝鮮戦争の次はベトナム戦争(1960-1975)です。このときに生まれた、あるいは広くつかわれるようになった言葉には次のような例があります。

例) defoliate(枯葉作戦), napalm(ナパーム弾による攻撃), firefight(射撃線), friendly fire(友軍砲火、味方への誤爆), search-and-destroy mission(索敵撃滅戦術), domino theory(ドミノ理論), inoperative combat personnel (死亡した軍人), silent majority (声を上げない戦争反対の多数派), vocal minority (声を上げる戦争賛成の少数派) など

新しい言葉や表現が生まれるきっかけは、もちろん戦争だけではありません。次回も英語という言語の更なる発展と広がりについてご紹介していきます。

担当:翻訳事業部 伊藤