Column

2023年7月

IRコラム③:
~『IR戦略の実務』の著者が語る~
IRの基本のルール「10S」とIR資料を翻訳会社へお願いするポイント

私と高辻さんの出会いは、社外取締役を務めているパンチ工業株式会社でのことです。IRに知見が深い社外取締役とご一緒するのはこんなに心強いのだ!と取締役会のたびに感じています。会社の経営方針を決める際、どのようにしたら社外である株主の皆様のご理解を得られやすいのか、またどのような行動をとると、誤解が生まれやすいのか、実例も交えながらご説明下さるので、説得力があります。また同業界のアナリストのご経験もおありなので、同業他社や類似業種の動向を元に適切なアドバイスもなさいます。それでは社外取締役として私自身は、どういう付加価値出していくべきなのか?そんなことを考えだしたら、最近は、高辻さんの苦手そうなところを探るようになりました(苦笑)。
仕事は忙しい人に頼め、とよく言いますが、Column執筆のお願いをしたら、間髪をおかずすぐさま原稿が送られてきたのには本当にびっくりです。

アークコミュニケーションズ代表取締役
大里真理子

高辻 成彦(たかつじ なるひこ)  プロフィール

日本ガバナンス・企業価値研究所 所長・経済アナリスト/情報経営イノベーション専門職大学 客員教授。この他、東京都市大学非常勤講師。パンチ工業(株)・ヤマシンフィルタ(株)・NITTOKU(株)社外取締役などを兼任。
元経済産業省職員。早稲田大学ファイナンスMBA。立命館大学政策科学部卒。株式アナリスト、広報・IR担当双方で所属会社受賞経験。
著書に『IR戦略の実務』、『企業価値評価の教科書』(共に日本能率協会マネジメントセンター)他計5作品がある。

今回は、自身の著書である『IR戦略の実務』(日本能率協会マネジメントセンター)の中で提唱している、IR活動をする際に守って欲しいIRの基本ルール「10S」の一部を、ご紹介したいと思います。

IRの10Sとは

第一に、分かりやすさの徹底(Simple)です。IRでは、端的で分かりやすい説明が求められます。まわりくどい説明は取材者にストレスを与えます。専門用語を多用するのも良くありません。使わざるを得ない場合には、最初に用語の意味を説明しましょう。

第二に、誠実な情報開示(Sincere)です。誠実で公平な情報開示でなければ、外部は不信感を抱きます。IRする側の言いたいことと、取材する側の聞きたいことは必ずしも一致しません。言いたいことだけを説明する対応は、慎む必要があります。

第三に、企業基本情報の提示(Summary)です。(1)主要製品・サービス・ビジネスモデルの内容、(2)主要製品・サービスの市場シェア、(3)主な競合、(4)主な取引先、(5)主な事業展開地域、(6)主要原材料、(7)関連の業界統計、(8)関連の規制動向、(9)企業の沿革、(10)強みと弱み、などの基本情報を説明することです。

第四に、成長ストーリーの提示(Story)です。IRでは、どのような経営方針のもと、どのような製品・サービスの 拡販によって、どのような取り組みで事業成長していくのかを説明できるようにする必要があります。業績が拡大している際にはあまり問題になりませんが、業績が悪い時ほど、どのようにして難局を打開して成長していくのかの説明が求められます。

第五に、直近の動向の提示(Situation)です。直近の動向を踏まえた説明をしなければ、説明の妥当性を疑われます。例えば、2022年現在であれば、原材料費や輸送費のコストアップや為替影響、ウクライナ情勢の影響などについて、どれくらいの影響があるのか、またはないのかを調べて回答できるようにする必要があります。

さて、ここまで5つご紹介しました。当たり前と思う方もいらっしゃると思います。しかし、数多く企業取材をしましたが、この5つだけでも完璧な会社は少ないと感じています。

英語でのIRの重要性とポイント

IRの10Sを実行するにも、言葉の壁を越えるのは大変です。日本の上場企業に投資する機関投資家の中でも、海外投資家の存在は欠かせません。事業規模が大きくなり、グローバルに展開するようになればなるほど、海外機関投資家の注目度は上がり、英語の資料やIRミーティングが必要になってきます。広報・IR担当者自らが全てこなせるのが理想ではありますが、現実的にはなかなか難しいでしょう。翻訳会社を活用する方が効率的な場面は多々あります。

IRを翻訳会社にお願いする際のポイント
英語でIRをする上で翻訳会社にお願いする際のポイントとしては、以下の3点です。
1)財務用語の理解が深いこと
2)会社固有の専門用語を特定し、情報共有すること
3)ツールとしてできるだけ形にすること

第一に、財務用語の理解が深いか、確認することです。IRの資料には、必ずといって良いほど、財務用語が出てきます。直近の動向についてなどの内容も、財務知識を持ち、財務用語が理解できなければ、スムーズな翻訳はできません。自然と、扱える翻訳会社は絞られてきます。

第二に、会社固有の専門用語を特定し、情報共有することです。製品・サービス、業界特有の用語は、その会社でなければ分からないものが存在します。翻訳会社に依頼する場合には、事前にきちんと情報共有しておくことが重要です。事前に製品・サービスの概要を翻訳者に説明しておくことも、スムーズな翻訳をしていただく上で大事でしょう。

第三に、ツールとしてできるだけ形にすることです。英語でも、パワーポイントや冊子にすれば、視覚的に理解することが可能です。英訳は、コーポレートサイトや統合報告書などのIRツールから始めるのが一般的でしょう。次に決算説明会など多くの人を集めて行うラージミーティングで使う資料の翻訳を進めたいところです。少人数の個別に行うスモールミーティングはなかなか手が付けづらいところかもしれませんが、ダイレクトにステークホルダーの関心がフィードバックされるので、これらのコンテンツが英語化できると、より相手の視点にたったシナリオ作成が促されることでしょう。

IRに携わる方の一助にでもなれば、幸いです。