ビーマン・バングラデシュ「カレー味の三日月」|翻訳者派遣会社が送るエッセイ 未知しるべ

翻訳者派遣会社が送る、世界を旅するヤマ・ヨコのエッセイ

ビーマン・バングラデシュ「カレー味の三日月」

未知を求めて世界を旅するヤマ・ヨコのエッセイ。今回は、「空の各駅停車」ことビーマン・バングラデシュ航空による30時間の空旅です。

給油のため着陸・離陸を繰り返し飛行する「南回り欧州線」。

機体の性能アップにより1990年代を最後に姿を消したが、それまでは北回り直行便に比べて価格が安いことから、バックパッカー御用達だった。
ムスリム(イスラム教徒)やヒンズー教徒が多い東南アジア、東アジア、中東を経由するため、機内食が鶏肉ばかりで"チキンフライト"とも呼ばれていた。

私が初めてヨーロッパに行った時もお世話になったのは、この"チキンフライト"だった。「安い=時間がかかる」の図式で、私が利用した「ビーマン・バングラデシュ航空」に至っては成田空港を飛び立ってから、バンコク、シンガポール、ダッカ(バングラデシュ)、ドバイ(UAE)と各国空港を経由し、目的地パリに着くまで、実に30時間もかかった。一方、価格が安いからと言って機内食がケチられることはなく、8食の機内食付きというなかなかの高待遇だった。

なかでも思い出深いのが、ダッカ空港である。

ダッカ空港に着陸し、迎えにきたバスに乗せられターミナルビルへと移動したかと思うと、係官がパスポートを預かるという。パスポートを渡すのには抵抗があったが、他の人も同じように言われているのを見て、渋々と手渡す。私のパスポートを受け取った係官は"Go upstairs"と、人のパスポートを無造作に階段に向けて振る。
指示に従って、2階に上がり、待合室の椅子に腰を下ろしていると、しばらくしてまた係官がやってきた。"Paris? Paris?"との呼びかけに立ち上がると、再び"Go upstairs"と指示される。
「今度は何だ?」と思いながら3階に上がっていくと、そこは食堂だった。入口で躊躇していると、民族衣装に身を包んだお姉さんが近づいてきた。"Paris?"と再び問われ、"Yes"と答えると、椅子に座るように促される。そして続けて"Chicken or curry?"の問い。
どうやら機内食だけでなく、"機外食"まで付いているらしい。そろそろカレー味にも飽きてきていた私はチキンを選択。食後のチャイまで堪能した。

飛行機に積み込む手間も省け効率的だし、「なぜか機内食が配られ始めると気流が乱れる」の法則にも触れず、ゆっくりと食べられる"機外食"はなかなか良いアイデアだ。
もっとも"機外食"の恩恵に預かったのはこの時が最初で最後であるが。

食事が終わったのを見計らったかのように、再び係官が現れ、階下へ降りるようにと指示される。いよいよパスポートの返却だ。しかし、これがまた大いなる手作業である。放送設備も何もない中で、係官が一人ずつ名前を読み上げ、卒業証書よろしく受け取りに行く方式なのだ。
しかも、慣れない名前のつづりに、読み上げ方もたどたどしく、心もとない。「ミスター・イ・ヌー」と、こんな調子だ。「いぬうさん?」頭の中で漢字変換をしようとしても、なかなかできない。「ミスター・イ・ノー・エ」と少し読み方を変えてきた。ここまできて"Mr. Inoue"らしいとようやく見当がついた。確かに"Inoue"はフランス語読みすれば「イヌー」である。

それでも、乗客を(たぶん)全員乗せて、ビーマン・バングラデシュ機は一路、いや残るドバイを経由して、目的地パリへと飛び立つ。日本を発って以来、次第に機内食の米は長細くなり、最後にはビーフンのぶつ切りのようになっていたが、ゴールはもう目の前だ。

パリの上空で出された8食目の機内食は、黄色いオムレツにクロワッサン(クロワッサンはフランス語で「三日月」の意)。いかにもパリの朝食にふさわしい!嬉々としてフォークとナイフを使って口に運んだオムレツは、カレー味...。心なしかクロワッサンもカレーの香りがする。完璧なパリの朝食はまだしばらくお預けのようだ。
パリの上空にフワフワ浮かぶ、無数のカレー味の三日月。
そんな映像が頭に浮かんだ。

まだ見ぬパリ。それでも私はパリッ子の知らないパリの景色を一つ知っている。
30時間に及ぶ空旅による"フライヤーズハイ"だったのか、愉快な気分だった。

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