ハンガリー「氷の家のトイレ」|翻訳者派遣会社が送るエッセイ 未知しるべ

翻訳者派遣会社が送る、世界を旅するヤマ・ヨコのエッセイ

ハンガリー「氷の家のトイレ」

未知を求めて世界を旅するヤマ・ヨコのエッセイ。今回はトイレシリーズ第一弾、トイレの快適条件について考察します。

快適なトイレの条件とは何だろうか。

第一に挙げられるのは「衛生的であること」だろう。「シャワー洗浄がついていること」を絶対条件に挙げる人もいるかもしれない。だが、海外に行くと、また違うトイレの評価軸も生まれる。

例えば、フィンランドに行った時のこと。長身の人が多いかの国では、ちょっとした寸法のずれがそこかしこで影響してくる。トイレの便座に座ると、足が地に着かず、どうにも踏ん張りがきかない。手を洗って髪を整えようにも、鏡の位置が高過ぎて、ぴょんぴょん跳ねても頭の先っちょしか映らない。男性に至ってはさらに悲惨だそうで、「つま先立ちしても、"ちょんまげ"状態だよ」(どういう状態かはご想像にお任せする)とか、「子ども用便器で用を足す屈辱を味わった」などの声も聞いた。
つまりは、日本にいる時はあまり意識することのない便座、便器の高さも、快適条件には欠かせないということだ。

もう一つ盲点とも言えるのが、広さの問題である。

オーストリアから鉄道で国境を越え、ハンガリーへと入った最初の町ショプロンは、"ほこりを被ったメルヘン"とでも言いたい、いかにも東欧の町だった。

「国境とは、地図にしか存在しない線」と常々感じていたが、ここでは違った。列車がハンガリーへと入った途端、町に、路地に、そして家の外壁の"ほこり"と"すす"の層が厚くなったのを感じた。建て替えることなく、何世代にもわたって大事に住み継ぐ町の姿が、国境を越えたことを如実に物語っていた。

そんなショプロンの町には、職業や屋号を示す鉄細工の看板が付いた家も多い。駅から看板を眺めながら、まずはその日の宿を探す。壁に「イェグべレム」と書かれた小さなホテルを見つけ、部屋を見せてもらう。

部屋は十分な広さがあり、申し分ない。バスルームと思われるドアを開けると、驚いたことにもう1つの部屋が現れた。メインの部屋とほぼ同じ広さのその奥の右隅には、ちょこんと便器が...。反対側の奥にはシャワールームもあり、かろうじてバスルームだとわかる。
聞けば「イェグべレム」とは、ハンガリー語で「氷の家」の意味で、以前は氷を売っていたらしい。ホテルに改造する際に、部屋を区切ってバスルームを設置する手間を惜しみ、部屋1つまるまるバスルームにしたというところか。広すぎるバスルームに納得し、広い分には差し支えないだろうと、投宿を決めた。

「さて」と荷物を下ろし、早速バスルームに向かう。ドアを開けて、1歩、2歩、3歩...、便器までがやけに長い。ようやくたどり着き、腰を下ろしてみると、がらーんとした空間が目の前に広がる。落ち着かない。誰に見られているわけでもないが、落ち着かない。ペーパーホルダーに手を伸ばして、トイレットペーパーをガラガラと巻き取りながらも、どこに視線をやっていいのかわからず、目が泳ぐ。

「大は小を兼ねる」というが、ことトイレについてはその限りではない。壁に囲まれ、目の前にドアが迫る、いつものトイレが恋しく思い出される。壁の四隅をキョロキョロと見回しながら、早々に用を足し、"早回し"で身支度を整えた。

この日、私は快適なトイレの条件に「両手を広げて壁タッチできる程度の狭さであること」という「広さ」あるいは「狭さ」の項目を頭の中で書き加えた。

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