Column

2017年1月

英語の豆知識 第五回: 発展のカギを握った英語

英語優先政策で発展したシンガポール

前回は、英語が多くの民族国家において、植民地からの独立後に民族間の共通語として根付いてきたことに触れました。

植民地にならなかった国でも、「外国語を覚えるなら英語しかない」と考える国はいくつも存在します。国連をはじめとする多くの国際機関や、ビジネスにおける商談はもちろん、個人での国際交流に至るまで、英語が使われる例は数知れません。

アジアでは、インドネシアや日本、中国などの人々が早くから英語の普及に高い熱意を持っていました。

中国では70年代後半から80年代にかけて、BBC制作による英会話番組のテレビ放送が始まります。番組は爆発的な人気を博し、一時は5,000万を超える視聴者が観ていたとされています。中国では、ちょうど改革開放に向けて西側諸国の投資を呼び込む国の方針が固まりつつあった時代でもありました。時代が進んだ今の中国では、海外留学や海外旅行は珍しくなくなり、英語の堪能な人材も多く育っています。

一方シンガポールでは、李光耀初代首相が「多民族国家の小国が世界で成功するためには、誰もが正しい英語を話せなければならない」という強い考えを持っていて、80年代中ごろまで英語第一政策(Englsih First policy)を掲げました。このおかげでシンガポールは21世紀に入り、英語が通じる国であることやビジネス・経済が上手く発展したことなどの相乗効果で、小さいながらも存在感のある国に成長し、将来的にASEANの首都になるのではないかという声も出ています。

日本では英語を外来語として積極的に取り込み

日本では、人々が英語を自由に使えるほどには至っていないものの、戦後、何万もの英語表現を"外来語"として受け入れてきました。発音は日本語化されていますが、元になっているのは英語ベースのものが圧倒的に多いことは皆さんもご存じの通りです。江戸末期や明治初期のように、高度な漢文教育を受けた人材のみが巧みに自国語化することはもうありませんでした(例:philosophy > 哲学、economy > 経済、など)。

英語を音訳で取り入れたのは日本だけではありません。

ドイツ語 die Jeans, die Soundtrack
フランス語 le weekend, le drugstore
スペイン語 el escáner (スキャナー)、el golf (ゴルフ)
中国語 的士 (タクシー)、因特網(インターネット)
タイ語 Akwariian /อควาเรียม(水族館/aquarium)、diisaai / ดีไซน์(デザイン)

侵食する英語、守るフランス語

20世紀後半、フランスでは自国語を英語(la langue du Coca-Cola)の浸食から守るべく、「流入した英語をフランス語に戻そう(jumbo jet > gros-porteur, fast food > prêt-à-manger)」という動きが国を挙げて起こったこともありました。実際、Le Monde のような有名紙では、150から200ワードに1ワードぐらいの割合で英語表現が出てくると言われています。

フランス語と英語の戦いはカナダでも起きています。1940年代の後半から、フランス語話者人口の多いケベック州で独立を目指す運動が起きました。結局、独立はなりませんでしたが、フランス語を第一言語にする法律「フランス語憲章(101号法)(Charter of the French language, Loi 101)」が1977年に定められました。看板や掲示物はフランス語で書かなければならず、学校教育は、両親の一人がケベックの小学校で英語教育を受けていない限り、フランス語での教育が義務付けられました。

反面、カナダでは英語の使用を求める人々も多く、教会等で子供たちを集め(非合法に)英語を教える動きもあったようです。場所が足りない場合は、放課後や週末に学校を借り、先生たちに払う給金は公の支払方にはしていなかったそうです。

こうしたケベック州の政策に、英語系住民はもちろん、イタリア系やギリシア系、中国系等の少数派住民から猛反発が起こります。法律を受け入れられない、あるいは対応できない人々は、ケベックを去って行きました。その数は20万にも及んだそうです。

2言語併用主義で英仏共存へ

ただ現在は、地域社会の中だけで人々が生きていける時代ではありません。カナダ国内のコミュニケーションでもケベック州外とやり取りする場合は、当然のように英語を使います。ケベックの空港でも、管制官はパイロットと英語で交信をし、銀行でもケベック外の支店と英語でやり取りします。

今では英語もフランス語も同等の地位とする2言語併用主義(バイリンガリズム)を採っているので、使用人口が減りつつあるカナダのフランス語も、しばらくは安泰となりました。フランス語憲章自体は、のちに違憲とされています。

そのカナダ英語も、隣国アメリカの影響や浸食を強く受けています。学校教育では、アメリカ製の教科書や辞書が普通に使われています。カナダ英語がアメリカ英語と似ている所以(ゆえん)はそこにもあるのです。

さて、これまで英語に関するさまざまな豆知識を紹介してきましたが、次回は他の言語ではなかなか見られない英語の長所についてまとめてみたいと思います。

担当:翻訳事業部 伊藤