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対談
2026/07/21

「恩送り」の精神が動かすリベラルアーツ教育──ICUと寄付の幸福な関係

  • Web

1953年の献学当初から、多くの人々の意志ある寄付によって紡がれてきた国際基督教大学(ICU)。自らが受けた教育の恩恵を、寄付という形で次世代へとつなぐ「Pay Forward(恩送り)」の精神が息づく、国内でも極めて稀有な文化を持つ大学です。その背景には、学生一人ひとりの個性を重んじる、徹底した少人数制のリベラルアーツ教育がありました。

アークコミュニケーションズは今回、ICUの寄付プラットフォームであるWebサイトのリニューアルを支援しました。献学の精神に遡る寄付の意義、卒業生との深いエンゲージメントの源泉、そして精度を高めた新たなサイトがもたらす情報発信の未来について、対談をお届けします。

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左から、佐藤、ダニエル、小牧、大里、イ、藏本 雅史様、佐藤 咲子様、森川 園子様

プロフィール

国際基督教大学(ICU)
藏本 雅史  特務担当理事(募金担当)
森川 園子  広報・社会連携部 グループ長
佐藤 咲子  広報・社会連携部 アドヴァンスメント・オフィス 職員


株式会社アークコミュニケーションズ
大里 真理子  代表取締役
佐藤 佳弘  取締役・Web&クロスメディア事業部長
フィエスキ・ダニエル  Web&クロスメディア事業部 営業
小牧 弘季  Web&クロスメディア事業部 ディレクター
イ・ジェソ  Web&クロスメディア事業部 ディレクター

寄付によって献学された大学、その原点にあるリベラルアーツの精神

佐藤(アーク):はじめに、ICUにおける寄付の原点と、他大学とは異なる独自の意義についてお聞かせください。

藏本様:ICUは、まさに「寄付によって誕生し、支えられてきた大学」です。創立時は、第二次世界大戦後の復興が緒についたばかりで生活の厳しい時代でありましたが、 国内外のキリスト教関係者はもとより、平和を願う日米双方の市民の方々からのご支援に支えられ、開学することができました。例えば、現在の三鷹キャンパスのある土地は、大学の使命にご賛同頂いた数多くの市民や企業等からの貴重な寄付によって購入されたものです。開学後もしばらくは、米国の財団からの寄付や多くのボランティアの方々のご支援が運営の支えとなっていました。

佐藤(アーク):創立の瞬間から現在にいたるまで、寄付は大学の存続と発展に不可欠な基盤であり続けているのですね。

藏本様:その通りです。本学が貫いている少人数制のリベラルアーツ教育、あるいはそれを育む緑豊かで広大なキャンパスは、本学の高い教育水準を維持するために欠かせない要素です。この素晴らしい教育環境を守り、次世代へとつないでいくためには、現在進行形で寄せられる皆様からの温かい寄付が重要な原資となります。したがって、本学において寄付は「過去の歴史」ではなく「現在進行形の経営基盤」であり、寄付者に対する深い敬意が、大学と卒業生双方の共通のカルチャーとなっています。

佐藤(アーク):現在、日本の高等教育機関を取り巻く寄付のトレンドや環境変化についてはどのようにお考えですか。

藏本様::多くの大学が募金事業に注力し始めていますが、背景にはいくつかの構造的な変化があります。1つ目は少子高齢化に伴う学生数の減少で、従来の規模拡大による経営が難しくなっていること。2つ目は国からの補助金の削減など、国公立大学を含めた高等教育全体における財政的な先行きへの不安です。3つ目は、電気代や人件費をはじめとするインフレの長期化です。大学経営の安定化のための収入源の多様化は、いまやどの大学にとっても重要なテーマと言えます。

佐藤(アーク):ICUとしても、そうした環境の変化に対応していく必要があると。

藏本様:はい。ただ、単に他校の手法を模倣するのではなく、本学の本質に根ざしたアプローチが重要です。米国には「Alumni Giving Cycle(同窓生による大学への還元サイクル)」という思想があります。大学が学生への質の高い教育に取り組み、その恩恵を受けた卒業生(同窓生)が卒業後も大学との間でエンゲージメント(つながり)を感じられる仕組みを提供することによって、社会的な成功を経た後に、次の世代のための寄付という形で大学に恩を返すというサイクルです。本学が従来から持つこのサイクルを今後も更に強めたいと考えています。その意味で、最新のWebテクノロジーを用いてこのサイクルをより強固なシステムにすることが、今回のプロジェクトの目的でした。


「個」を認識する教育が育む、深いエンゲージメント

佐藤(アーク):ICUは卒業生とのエンゲージメント(つながり)が非常に深いことで知られています。その理由をどのように分析されていますか。

藏本様:時代ごとに変遷はあります。創立間もない黎明期、まだ社会全体が不安定な時代にあっても、学生たちが将来の心配なく学問に没頭できるよう、本学は、必要に応じて資金的な支援もしつつ、徹底したリベラルアーツ教育を提供しました。ここで国際的な知見を身につけ社会に羽ばたいた卒業生たちは、「ICUがあったからこそ、いまの自分がある」という、極めて強い感謝と愛校心を持ってくださっています。


対談,

森川様:創立から70年を超え、学生の多様性や時代背景が変わった現在でも、卒業生のコミュニティに対する愛情の強さは一貫しています。その核心にあるのが「一人ひとりの顔が見える教育」です。学生時代に "大勢の中の一人" ではなく "かけがえのない個" として認識された記憶が、大学への深い信頼感につながっています。豊かな自然に囲まれたキャンパス、教員との緊密な距離感、寮生活や独自のコミュニティで自由に伸び伸びと過ごした記憶が、卒業後も「いつでも帰ってこられる心のホーム」として機能しているのだと思います。

佐藤(アーク):素晴らしい関係性ですね。一方で、時代の変化によるつながりの希薄化という懸念はありませんでしたか。

藏本様:懸念はありました。本学でも開学当初に比べれば学生数が大きく増加しています。これに伴って、キャンパスライフの過ごし方も多様化し、学生によって大学との距離感に少しずつ違いが生まれつつあるのも事実です。課外活動や寮生活、あるいは本学での学びに深くコミットした層は強いエンゲージメントを持ち続けますが、そうでない場合は、どうしても卒業後の大学との接点が少なくなってしまいがちです。そこで、大学側から能動的にアクションを起こし、先ほど申し上げた「Alumni Giving Cycle」を、現代のライフスタイルに合わせた形でより豊かに展開しています。

大里(アーク):具体的には、どのような施策を展開されたのでしょうか。

森川様:従来、ICUは卒業生の自発的な愛校心に甘えてしまい、大学側からの積極的なアプローチを控えてきた側面がありました。基本的には、卒業25周年、50周年の特別な節目以外は、卒業生が自主的に集まる同窓会に委ねていたのです。そこで近年、年1回開催する同窓生向けイベント「ICUホームカミング」の当日に、卒業後10年ごとの節目を迎える年次を対象とした「周年記念同期会(Anniversary Reunion)」を同時開催する体制へと進化させました。ご家族連れでの参加を歓迎し、参加への心理的ハードルを下げる工夫をしたところ、若い世代や当日の飛び入りも含めて参加者が大きく増え、確かな手応えを得ることができました。

藏本様:連絡先(データベース)の維持も生命線の1つです。近年は、デジタル化の進展や個人情報保護の意識の高まりもあって、従来に比べてメールアドレス・住所変更の追跡など連絡先の確保が難しくなっています。こうしたイベントの開催は、旧交を温める場というだけではなく、同窓生とのコンタクトラインを復活させ、大学からの適切な情報発信を可能にするための重要なインフラ整備の手段でもあります。


Webの力で寄付の障壁を取り除き、情緒と機能を両立させる

佐藤(アーク):今回、寄付特設サイトのリニューアルに踏み切られた最大の動機は何だったのでしょうか。

藏本様:最大の課題は「導線」にありました。旧サイトは様々な情報が複雑に絡み合い、制作した我々でさえも目的のページを探すのに苦労する状態でした。これでは、寄付をしようと考えてアクセスしてくださった方のモチベーションを削いでしまいます。機会損失を防ぐためのUX(ユーザー体験)の抜本的な見直しが、決断の背景にあります。

佐藤(アーク):事前の分析において、ICUの寄付構造は「大規模大学に比べて全体の寄付者数は限定的であるものの、一人あたりの寄付額が非常に高い」という特徴があることがわかっていました。そのため今回の設計では、既存のコアな寄付者層への利便性担保はもちろんのこと、これまで寄付に馴染みがなかったライト層に対して「この金額なら参加できる」「ワンクリックで手続きが完了する」という、心理的・技術的ハードルを下げるアプローチに注力しました。

佐藤咲子様:アークさんはもともと本学の公式サイト制作に関わっていただいていたため、我々のカルチャーを深く理解してもらえているという安心感がありました。また、事前に海外トップ大学のドネーションサイトの最先端事例をリサーチして提案に盛り込んでくださるなど、その熱意に感銘を受けました。特に、寄付の意思決定を直感的にサポートする「補助フォーム」の実装は、日本の大学サイトでは先進的な試みであり、こうして一緒に新たなものにチャレンジできたことを大変嬉しく思っています。


対談,

森川様:翻訳会社としての高い専門性も持つアークさんだからこそ、バイリンガル環境を前提とするICUにおいて、英語でのネイティブな情報発信や世界観の統一を安心してお任せできた点も、選定の大きな要素でした。

小牧(アーク):ありがとうございます。サイト内の文言(コピーライティング)についても、専門用語を排したシンプルな表現と、サイト全体での一貫したトーン&マナーの統一に細心の注意を払いました。

イ(アーク):Webの専門知識を持たない大学の運用担当者の方々でも、迷わず安定して運用できるよう、視覚的にわかりやすいマニュアルの作成と丁寧なレクチャーを意識して、日々の業務に並走させていただきました。

佐藤(アーク):サイト訪問者が、自らの関心や立ち位置(卒業生、保護者、一般など)に応じて自然にルートを選択できる導線も意識しました。まだ寄付を具体的に考えていない方であっても、情報の閲覧を通じて共感を覚え、「これなら自分にも貢献できる」と思えるような、心理的なグラデーションを大切に設計しています。


成果の"見える化"が、投資としての共感型寄付を加速させる

大里(アーク):ICUが採用している「基金型」の寄付(元本を維持し運用益を活用する仕組み)は、日本の大学では非常に先進的なモデルであり、寄付者にとっては「次世代への永続的な投資」という高い価値を持っています。「自分が投じた資金が、どのような学生の成長や成果に結びついたのか」を精緻にフィードバックしていくことこそが、今後のエンゲージメント強化の鍵を握ると考えています。

藏本様:ご指摘の通り、情報発信は我々の長年の課題でした。どこか「お上品」に構えてしまい、アピールを控えてしまう文化があったのかもしれません(笑)。今後は、奨学金を得て学んだ学生たちの具体的な成果や研究内容を、より積極的に可視化していきます。また、ICUには「自分が受けた恩恵を、次の世代への奨学金として送る」という『Pay Forward基金』があります。奨学金向けの寄付は、一旦基金に積み増し、その運用益を奨学金として支給する仕組みとしています。これにより、頂いた寄付は今後とも永続的に奨学生を支えることができることとなります。こうした恩送りという人の温かい心を表現した仕組みが存在すること自体も、サイトを通じてより強く発信していくべきだと考えています。

大里(アーク):ICUの強みは、この圧倒的に良質なコミュニティの存在そのものです。「この価値あるコミュニティの一員として、共に未来へ投資しよう」と呼びかける "共感型の寄付" は、金額の多寡を超えた強みになります。今後は、寄付総額だけでなく、寄付率や参加者数の推移といった「エンゲージメントの広がり」を示す指標も前面に出していくと、ビジネスパーソン層の共感を生みやすいと考えます。

森川様:今回、アークさんからご提案いただいた「MAKE A GIFT, MAKE A CHANGE.(あなたの寄付が、未来を変える)」というキャッチコピーは、まさにその思想を体現しています。金額の大きさに関わらず、一人ひとりのアクションが大学、ひいては社会に変化をもたらすというメッセージは非常に貴重です。今後は、起こした変化の結果をWebサイトを通じて「見える化」し、報告していくことが極めて重要になると考えています。


対談,


プラットフォームの完成、内容を伝える能動的な情報発信の第2ステージへ

佐藤(アーク):新たなプラットフォームが構築されたいま、今後の展望についてどのようにお考えですか。

藏本様:今回アークさんに構築していただいたWebサイトによって、我々にとって強固な「基盤(プラットフォーム)」が整いました。ここにどう命を吹き込んで活用していくか、これからの運用の取り組みこそが重要になってきます。これまでは「寄付をお受けする」という受動的な位置づけが強かったサイトを、今後は情報発信を通じて、大学側から同窓生へ能動的に寄付をお願いしていくエンゲージメントメディアへと進化させていきたいと考えています。

森川様:リニューアルオープン直後ですので、まずはユーザーの皆様の反応をしっかり検証していきます。今回のリニューアルで、寄付に対する温度感も伝わる、想いがのったサイトに仕上がったと実感しています。今後はこの熱量を維持し、さらに拡張していきたいですね。

ダニエル(アーク):アークコミュニケーションズは、Webサイトの構築に留まらず、動画コンテンツやグラフィック、パンフレットといったクロスメディアでの展開も得意としております。大学の立体的な情報発信戦略において、今後も多角的な形で貢献できれば幸いです。

佐藤咲子様:サイトの更新実務を担当する立場としては、寄付者側の使いやすさはもちろん、内部の運用効率が大きく向上したことを実感しています。丁寧なマニュアルとCMS(管理画面)の最適化のおかげで、HTMLの知識がなくとも、最新のニュースや学生の声をタイムリーに反映できるようになりました。今後は発信の頻度と質を高めていきたいです。

佐藤(アーク):本日は貴重なお話をありがとうございました。Webサイトは「作って終わり」ではありません。これからもICUの新しい挑戦に、全力で並走させていただきます。

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