英語の豆知識

2018年7月

第八回: 米語に於けるノア・ウェブスターの功績

前回に引き続き、今回もアメリカ建国当時の米語についてご紹介します。

ベンジャミン・フランクリンは政治家であると同時に発明家としても知られていました。彼は当時、英語のスペリングの成り立ちがあまりに統制が取れていないことに危機感を覚え、論文を発表することでその是正を世に訴えました。(第7回参照

辞書編纂を手掛けるノア・ウェブスターもそれに共感し、その後のアメリカ英語の形成に大きな影響を与えることになりました。彼が1828年に世に出した 『American Dictionary of the English Language』 はおよそ7万語を収め、2巻からなる大型の辞書でした。アメリカ特有の表現や綴り字を収め、イギリスの辞書とは一線を画す存在となりました。

ウェブスターは、若い頃独立戦争(American Revolution)にもかかわっていましたが、その後は生計を立てるために教職につきました。当時、教育現場で使う教科書用の書籍は、イギリスから輸入したものが広く用いられていましたが、イギリスは各地の植民地での紛争対応に国力を注がなければならない状況だったため、輸入が滞り、品薄になるという状況が起こっていました。さらに当時ウェブスターはまだ二十代でしたが、「イギリスの教材では内容が不十分」と考えており、そのギャップを埋めるための教材を自ら作成し、世に出しました。1783年から1785年までの間に出した「綴字(Speller)」「文法(Grammar)」「読解(Reader)」の3科目です。

その中でも青い表紙の綴字教本の評判はこの上なく良く、ウェブスターの生涯で8000万部売れたそうです。これは聖書に次ぐ売れ行きで、当時ウェブスターのセールスマンは聖書とセット販売するという手法も一部で取っていたと言われています。

ウェブスターはこの綴字教本を学校教育で使うことにより、アメリカ式の綴りを普及させることはもちろん、誰もが正しく発音できることも目指しました。綴り方に加えて彼が強調したのは「単語の中の各音節は略さずにしっかりと発音すること」というものでした(イギリス英語の例として secretary という単語は secret'ry のように「-a-」の部分を省略して発音される事があるのに対し、アメリカ英語では sec-ret-ary のように全ての音節をはっきり発音します)。これに関する学校での指導法の例として、以下のような記録が残っています。

教室で生徒が起立し、先生の号令のもと、2音節以上の単語を1文字ずつ、1音節ずつ分解して発音していく練習をします。例えば「publication」という単語。これを、

p(ピー)、u(ユー)、b(ビー)、pub(パブ)、
l(エル)、i(アイ)、li(リ)、publi(パブリ)、
c(シー)、a(エイ)、ca(ケイ)、publica(パブリケイ)、
t(ティー)、i(アイ)、o(オウ)、n(エヌ)、tion(ション)、publication(パブリケイション)

の様に最小要素まで分解して発音する練習です。これをいろいろな単語で行い、綴り字と実際の発音の関係を徹底的にマスターすることを目指しました。