ギリシャ・クレタ島「白いベールと黒い魔女」|翻訳者派遣会社が送るエッセイ 未知しるべ

翻訳者派遣会社が送る、世界を旅するヤマ・ヨコのエッセイ

フランス・パリ「苦い記憶と甘い罠」

未知を求めて世界を旅するヤマ・ヨコのエッセイ。今回は私の拙いフランス語が招いた、パリでの苦く、甘い経験をお届けします。

パリでの楽しみの一つはカフェにある。

モンマルトル界隈の老舗カフェでプチ・デジュネ(フランス語で朝食)を楽しむもよし、路地裏のこぢんまりとしたカフェでカフェ・クレーム(スチームしたミルクが入ったコーヒー)で一息つくもよし。「あー、パリにいるんだなあ」という気にさせてくれる。少し気取って、注文時に「シルブプレ(英語でいうところのプリーズ)」を付けることも忘れない。そうしたところで足元から立ち上るスニーカーの蒸れた臭いが消えるわけでもないが、それがパリのカフェなのである。

歩き疲れ、少し休憩しようと入ったカフェでのこと。エスプレッソもいいけれど、もう少し量がほしい。メニューに走らせていた目が留まったのは"double espresso"だった。
注文して数分後、デミタスカップが運ばれて来た。見るからに粘着性が高く、墨色をした液体はデミタスカップの半分ほど。「ん?これで本当に倍量(ドゥーブル)?」と訝しみ、店員を引き止め「これはドゥーブル・エスプレッソか?」とドゥーブルを強めに発音して確認する。"ウイ(もちろん)"というあっさりとした返答を残し、店員はさっさと引っ込む。
たいしてフランス語ができるわけでもない私は、それ以上のことも言えず、店員の後ろ姿を目で追いながら、カップを口元に運ぶ。

「にがっ!」

あまりの苦さに、気取りも吹き飛ぶ。フランスでは量ではなく、濃さがダブルのエスプレッソがあるのか? そうでなければあり得ない、この衝撃的な苦さ!
試しに、別の店で"espresso"に"grand"(grandは「大きい」の意味)を付けて注文したら、倍量のエスプレッソが出てきた。再度"double espresso"を注文する勇気はなかったため、いまだ事の真相は不明だが、生涯一苦いコーヒーであったことは間違いない。

またある日、ココ・シャネルも通ったという老舗サロン・ド・テの「アンジェリーナ」パリ本店へ。目指すは、チョコレートを丹念に溶かしてつくられるホンモノの"ショコラ・ショー(ホット・チョコレート)"だ。ベルエポックの香りを伝える瀟洒な店内に舞い上がり、少し緊張もする。"おのぼりさん"とばれないように平静を装って、まずはお目当ての"ショコラ・ショー"を注文。名物のモンブランも気にはなったが、ドリンクが甘いのでもう少し軽めのものをと考え、エクレアを追加。

注文し終え、少し緊張が緩んだところに、「ショコラ?」と店員が聞いてくる。「ウイ、ショコラ!」。それが目当てで来ているのだから、頼むよ。言葉で伝えられない分、目に力を込め、食い気味で答える。

銀のお盆に銀のポット、なんとも麗しい装いで"ショコラ・ショー"とエクレアが登場。「うーん、さすがホンモノのショコラ!濃い!あまーい!」と上機嫌でいただく。次にエクレアを、これまた銀の麗しいフォークで割ると、中から現れたのは紛れもないチョコレート。 その瞬間に、私はすべてを悟った。店員の最後の「ショコラ?」はエクレアの種類を聞いていたのだと。そういえば、ショコラの前に何か言っていた気がする...。きっとプレーンかチョコレートか、どちらにするかと聞いていたのだろう。注文し終えた安心感で気を抜いていた、まあそうでなくても私のわかるフランス語は限られているから、今さら後悔したところで仕方ない。
諦めて、チョコレートがたっぷりと詰まったエクレアを一口。口に広がる甘さを、まさに飲むチョコレートというべき"ショコラ・ショー"がさらに口中に塗り広げていく...。言っておくが、私は相当な甘いもの好きだ。甘いものに目がないと言っていい。だが、仮に辛いもの好きでも、激辛カレーに青唐辛子スープは合わせたくないだろう。

もはや「あまーい!」は歓喜ではなく、悲鳴と化した。

パリのカフェとはまことに奥深く、旅人は籠絡されるしかない。

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