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アイルランド・ゴールウェイ「私に似合う服は?」|翻訳者派遣会社が送るエッセイ 未知しるべ

アイルランド・ゴールウェイ「私に似合う服は?」

翻訳者派遣会社が送る、世界を旅するヤマ・ヨコのエッセイ

ヨーロッパ、チップの愉しみ方

未知を求めて世界を旅するヤマ・ヨコのエッセイ。今回はアイルランドでの経験から髪色をめぐる雑感を中心にお届けします。

アイルランドの名産の一つにアランセーターがある。

アラン諸島の女性が出漁する夫や息子のために思いを込めて編んだもので、自然をモチーフにした様々な編み模様が施されている。それぞれの模様、例えば蜂の巣(ハニカム)には「無事に帰ってくるように」という意味がある。水をはじくようにウールの油脂分を活かしているのも特長だ。

その効能はすでに私自身、実証済みである。というのも、うっかりポットのお湯を腕にかけてしまったのだが、アランセーターを着ていたおかげで湯はしみ込むことなく、火傷はおろか、熱さすらほぼ感じなかったという後日談があるからだ。

私が持っているアランセーターは、アラン諸島のゲートウェイたるゴールウェイで買ったものだ。その時、もうひとつ目に留まったのがムートンのコートだった。グレーとオレンジの二色(いずれも裏側は黒)があり、どちらにするか迷っていた。日本と違い、向こうの店員は寄ってこない。意見を聞きたければ、こちらから行くしかない。

"Excuse me"と声をかけると「あーら、いたの」くらいな感じで、ゆっくりと店員は振り向いた。
「これとこれとで迷っているんだけど、どっちが私に似合うと思う?」自分で決めかねるなら、相手に委ねようという作戦だ。日本語ではしにくい質問も、英語でなら不思議とハードルが低い。
店員はコートを私に当てながら「そうねえ」と、さっきまでのどこか眠たげな表情とはうってかわり、真剣な瞳で見つめてくる。
「こっちね」
しばしの間を置いて、店員が示したのはオレンジだった。「あなたの髪は黒いから、こっちのほうが映えるわ」
日本ではあまりしない質問に返ってきたのは、「髪が黒いから」という日本では耳にしたことのない言葉だった。髪色とのマッチングという新しい観点に気付かされるのも旅の醍醐味の一つといったところだろうか。

そう言えば、子どもの頃はふわふわした金髪にあこがれたものだった。いわゆる少女文学を読んでいた影響も多分にあったのだろう。自分の髪は、黒く重たく野暮ったく思えたものだ。そんな少女時代のことなどとうに忘れたはずだが、初めて訪れたヨーロッパ、パリでお上りさんよろしくエッフェル塔に上る列に並んでいた時。私の前に並んでいた女性がぱっと振り向いた。真っ黒なおかっぱ頭の髪を揺らして振り向いた顔は透き通るように白く、薄い水色の瞳をしていた。あり得ない組み合わせの、二次元のような(今で言えばCGキャラクターのような)美貌!その容貌から黒髪に染めているのは明らか。私たちが金髪にあこがれるように、黒髪にあこがれ、ファッションに取り入れている彼らの姿を見て、自身の黒髪が少し軽くなった気がした。

最近では、グレーヘアというワードを耳にすることが多くなった。白髪を染めずにありのままでいようということらしい。私自身は年の割に白髪が少なく染める必要を感じていないが、80歳を超える母はいまだに定期的に美容院で白髪染めをしている。

「女はいくつになっても綺麗でいたいのよ」と言われれば、そんなものかと思うし、綺麗であろうと努力することは悪いことではない。が、明らかに身体に負担がかかる化学薬品を使い続けるべきなのか、そうして得られたものは本当に"綺麗"なのか、もやもやとした思いも残る。
誤解のないように言っておくが、髪を染めることを否定する気はさらさらない。ただ"染める"派の人たちが、「老けてみられるのが嫌」という人目以上に、「自分自身が耐えられない」と白髪に強い拒否感を示していることをTV番組の調査で知り、少なからず衝撃を受けた。そこまで白髪を拒絶する理由は何なのか、その価値観はどう形成されたのか。同番組ではアレルギーなどで染めることができなくなり苦悩し、「グレーヘアに出会って救われた」と語る人も紹介された。まるで黒と白の間に張られた一本のロープの上を落ちまいと必死に渡っているようではないか。
「ありのままでいたい」「ありのままでいいよ」と言いながら、案外、「ありのままでいたくない」のが本音かもしれない。黒と白はそのまま、「若さ」と「老い」の象徴であり、若さに価値が偏る(特に女性の場合)日本では、「ありのまま」でいるのは不利で、「生きにくい」のだ。
自分に合う服を探すように、生きやすい世の中へと価値観すら変えていく。そんなたくましさがあってもいい。迷った時は判断を他人に委ねてみれば、また新たな発見もある。そう、世界はグレースケールではなく、カラフルなのだから。

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