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アイルランド・クリフデン「紅茶の本拠地」|翻訳者派遣会社が送るエッセイ 未知しるべ

アイルランド・クリフデン「紅茶の本拠地」

翻訳者派遣会社が送る、世界を旅するヤマ・ヨコのエッセイ

パリ・ノートルダムへの道

未知を求めて世界を旅するヤマ・ヨコのエッセイ。今回は、郊外に小さな廃城が残る町、クリフデンを頂点とする、ティーポットの重みと人情の相関関係について、思いを巡らします。

アイルランドでの宿探し

英国は紅茶の国と言われるが、アイルランドからイギリスまで旅する中で、最も印象深い「ティーポット」は、アイルランドの田舎町クリフデンにあった。 日が暮れた頃、私と友人を乗せたバスはクリフデンの町に着いた。リュックを背負い、バス停から一番近い宿を訪ねると、今日は満室だからと、別の宿を手書きの地図付きで紹介してくれた。



「ここの坂を下ったところだからね」

おばちゃんの声に背中を押され、「よっ」と重い荷物を背に、暗い道を歩き出す。ほどなくして見えてきた目当ての宿を訪ねると、先ほどと良く似たおばちゃんが2階の部屋へと案内してくれた。


「"ブス"で来たの?」

アイルランド訛りの英語で聞かれ、「そう、"バス"で」と答える。 「さっき着いたばかりで、夕食がまだなんだけど、近くに何か食べられそうな店はある?」と聞くと、「ちょっと待って」と言い残し、おばちゃんは1階へ下りていった。 「ふー」、まずは荷物を下ろし、一息つく。


ところが、二息どころか三息ぐらいついても、まだおばちゃんは戻ってこない。時計を見ると8時を回っている。これから外灯も少ない夜の町に出るのも、次第に面倒くさくなってくる...。もともと乗り物に弱い私は、悪路とまでは言わないまでも、ガタピシ揺れる道を何時間も走ってきて、それほど食欲があるわけでもなかった。

おばちゃんとティーポット

「もう、今日はいい」と言いに行こうと、ドアに一歩踏み出した時、「コン、コン」とノックの音がした。

ドアを開けて驚いた。おばちゃんが大きなお盆を持って立っていたのだ。

目を丸くして突っ立つ私の横を、大きなお盆を持ったまま器用にすり抜け、テーブルに載せ、東洋のお腹を空かせた2人(と、思われていることだろう)に満面の笑みを向ける。


お盆には、山と積み上げられたトーストと、大きなティーポットとカップ。トーストは数えてみると8枚ある。 「1人、4枚か...」 もう今夜は食べないで寝ようかと思っていた、やや車酔い気味の身に、トースト4枚は重い。しかし、おばちゃんの親切を無にするわけにもいかない。まずは紅茶で臨戦態勢を整えようと、ティーポットに手を伸ばした。

「う、重い」

私の覚悟が足りなかったらしい。ティーポットは根が生えたように動かない。気合いを入れて、ようよう持ち上げ、ティーカップに注ぐ。 「これは、1人5杯だな」そう思わず、ひとりごちりながら...。

ティーポットの重み

その後、アイルランドの田舎町から首都のダブリンへ、グレートブリテン島に渡ってロンドンへと旅を続けたが、これほど重いティーポットに会うことはついぞなかった。都会になるにつれて、ティーポットは軽くなり、ついにロンドンに至っては1〜2杯に...。紅茶の本拠地を名乗るには、憂うべき体たらくだ。

ティーポットが軽くなる度に、クリフデンのおばちゃんのホスピタリティを懐かしく思い出し(もちろん無償提供だった)、いつの間にか、私にとっての紅茶の本拠地はクリフデンになっていた。

アイルランドにはいい思い出しかないが、なかでも小さな廃城と牧草地、きれいな空と新鮮な空気、そして大きな身体にホスピタリティがたっぷり詰まったおばちゃんがいるクリフデンは、今も私のお気に入りの場所だ。

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