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アゼルバイジャン・シェキ「ピティ警察に敬礼!」|翻訳者派遣会社が送るエッセイ 未知しるべ

アゼルバイジャン・シェキ「ピティ警察に敬礼!」

翻訳者派遣会社が送る、世界を旅するヤマ・ヨコのエッセイ

pitisoup

未知を求めて世界を旅するヤマ・ヨコのエッセイ。今回は、アゼルバイジャンの古都シェキで名物料理をめぐる攻防戦(?)の模様をお届けします。

「ピティ」なる名物料理を食す

アゼルバイジャンには「ピティ」という名前の名物料理がある。殊に古都シェキのピティは有名で、「シェキ・ピティ」と呼ばれているらしい。そう聞いていた私は、シェキの中央バザールの食堂でメニューにその名を発見した時、躊躇なくそれをチョイス。


友人と2人、外来危険生物ヒアリの動静を監視するSNS「ヒアリ警察」について話題が及んでいた時、素焼き壷に羊肉や野菜、ひよこ豆を入れたオーブン料理ピティが登場。どうやって食べるのか、手をつけあぐねていると、少し離れた席のおじさんが立ち上がり、私の元へ。

深皿にパンをちぎっては入れ、ちぎっては入れ...。「いや、そんなに食べられないから」と静止しようとも、「俺に任せておけ」とばかりに彼の手は止まらない。皿がパンで埋まると、彼はおもむろに素焼きポットを傾け、フォークで中身の具が出ないように押さえながら、汁だけをパンの上に注ぐ。注ぎ終わると、フォークをパンの上に置き、「さあ食え」、いや「召し上がれ」と私にすすめ、自席に戻っていった。

残された私は、彼の視線を感じながら、汁に浸って膨張したパンをフォークで口に運ぶが、パンはいっこうになくならない。インターバルを挟みたいと、料理と一緒に頼んだチャイ(紅茶)はまだかと、店員を目で探す。ようやく店員を捕まえ、チャイの催促をしてしばらく、待ちに待ったチャイが運ばれてきた。

これでようやく、汁の塩辛さを中和できると安堵する私のところへ、またもや件の彼が。店員に「そうじゃないよ」と文句を言っている。さらにはくるりと私の方を吹き向き、「チャイを頼んだのか」と聞いてくる。このやり取りは全てアゼルバイジャン語なのだが、こういう場面ではなぜか通じるものだ。何か納得がいかないらしい彼は、店員に何か告げるが、店員が忙しそうにしているのを見ると、自ら厨房に乗り込み、皿を手に戻ってきた。 彼はその皿に、素焼き壷に残っていた具、すなわち羊肉とじゃがいも、玉ねぎなどの野菜、ひよこ豆を出していく。それらを混ぜ合わせる動作をしてみせ、「いいな、こうやって食べるんだ」と目で念を押す。

ピティ警察、あらわる

自席に戻っても、こちらの様子からは目を離さない。さながら「ピティ警察」だ。「当地名物たるピティの食べ方を知らない旅行者に、私がしっかりと教えてやらなければ」という使命感に満ち満ちている。

監視の目を意識しながら、彼に言われた通り、具を混ぜ、口に運ぶ。そこで、ピティ警察が三度動いた。私がごろっと大きな羊の脂身を避けながら混ぜているのが、見逃せなかったらしい。 「もっと混ぜるんだ、こうやって細かくすりつぶして、肉も脂身も豆も...」 すかさず指導が入る。

「ああああ、避けていた脂身が...」

もはや肉も脂も豆もすべてが渾然一体となったオートミール状の食べ物を半分涙目で見ながら、「イエッサー」と従うしかない。汁に浸ったパンの上に、チャイを流し込み、膨らんだ腹に、すり潰された具を詰め込んでいく。彼の監視の目は今なお鋭い。

目が合うと、ピティ警察は「それでいい」というように厳かに頷いた。「旅行者に正しいピティの食べ方を伝授し、守らせる」という彼のミッションはコンプリートされたのだろう。満足気な笑みを浮かべると、こちらに軽く会釈し、彼は悠然と店を去っていった。

"親切な人大賞"に悩む国ナンバーワン?

「もう少し、自由に食べさせてほしい」というのが真情だが、このおせっかいさがアゼルバイジャンの真髄だとも思う。

今回の旅では、アゼルバイジャン人の親切さに本当に多く触れた。初日からホテルへの道を迷う私たちに声をかけ、道案内してくれただけでなく、「何か困ったことがあればいつでも電話を」と携帯電話番号まで教えてくれたご夫妻。自宅を工房にしているシルクスカーフの職人を紹介してくれ、タクシーを呼んでくれたばかりか、そこまで行く道のりを丁寧にドライバーに説明してくれたツーリストインフォメーションの職員。お願いしたルートに加え、「こんなところもあるよ」と名所案内をしてくれたタクシードライバー。

「今回の旅行の"親切な人大賞"を選ぶとしたら?」の問いに、最も悩んだ旅と言ってもいいかもしれない。 ピティ警察をはじめ、アゼルバイジャンの親切でおせっかいで、愛すべき人々に改めて敬礼!

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