ニジェール「混ざり合うもの」|翻訳者派遣会社が送るエッセイ 未知しるべ

翻訳者派遣会社が送る、世界を旅するヤマ・ヨコのエッセイ

ニジェール「混ざり合うもの」

未知を求めて世界を旅するヤマ・ヨコのエッセイ。手洗いをする機会が格段に増え、水資源の豊かな国であることをありがたく思うと同時に、そうではない国への想いも募ります。今回は、そうした国の1つ、ニジェールで体験した"これまで考えたことなかったこと"です。

水の色は何色?

「水道の蛇口から"飲める水"が出る国は本当にいいね」

「"飲める水のお風呂"なんて、贅沢だよね」

海外在住経験者からしばしば聞かれる言葉だ。私自身は、海外在住経験のない、軟派な旅行者に過ぎないが、私の旅のパートナーは世界の最貧国の一つ、西アフリカのニジェールで2年を過ごした強者である。彼女いわく、「雨期になると蛇口からカフェオレ(色の水)が出てくるよ」「それをたらいに貯めて、市場で売っている魔法の粉を入れると透明になるんだ、びっくりだね」

びっくりなんてもんじゃない。カフェオレも気になるが、魔法で片付けられるあたり、相当、ニジェールナイズされている。後々、魔法の粉なるものは"みょうばん"だと判明したが、もちろん水がろ過されるわけではなく、澱みが沈殿して、上澄みは一応透明になるということのようだ。水色という言葉があるが、思わず水の色ってなんだろうと考えてしまう。

私がニジェールの彼女を訪ねたのは雨期ではなかったので、蛇口からカフェオレは出なかったが、水が貴重であることに変わりはない。水のでないシャワールーム(といっても布切れ一枚で仕切られただけのスペース)で、たらいを一つ渡されて、「これで体全部洗ってね」と言われた。

水だけではない。台所で使うガスもタンクを市場に買いに行かなければいけないし、停電はいつものことだ。スイッチを押せば、蛇口をひねれば、即解決とはいかない。現代生活こそ魔法の宝庫だと改めて気付かされた。

コップに水滴が付かない理由

そんなニジェールで冷たい"飲める水"はまさにご馳走だ。コップを持った瞬間の冷やっとした感触が心地よい。喉を通る道筋が、手に取るようにわかる。ごくっと嚥下し、その道筋を追跡し、しばし余韻に浸る。その時、ふと気付いた。気温はおそらく40度近くあるはずなのに、その冷たい水を入れたコップには水滴が付いていない。冷やっとはするものの、指が濡れた感触はない。

そうか。コップの外側につく水滴は空気中の水分が液化したものなのだから、空気中の水分量が圧倒的に少なければ液化した途端に干上がるのか。科学的に正しい理解がどうかはわからないが、圧倒的に少ない水を巡る激しい攻防戦がこのコップのガラス面で起きているのだとすれば...。同時に、冷たい水にあやかろうと熱気が猛烈な勢いで流れ込む様子が見えた気がして、慌てて一気に飲み干した。

体温と気温

実はこの水を巡る攻防戦は皮膚上でも起きている。それを知ったのは、その日の夕方、おそらく脱水によるものと思われる症状で、40度の高熱を出した時のこと。日中、外を歩き回り、水分は取るように心掛けていたものの、熱気の貪欲さには及ばなかったようだ。肌を射る太陽の熱線を避けるべく、吸湿・速乾性に優れた長袖シャツを羽織っていたこともあり、汗をかいたという実感がなかったこと原因だろう。夕方とはいえ、まだ暑い部屋の中で、一人「寒い、寒い」と毛布にくるまるはめに。冷たい水という特効薬のおかげで、しばらくすると熱は下がり、動けるようになったのは幸いだった。

  

わずか数度の体温の上昇、目に見えない空気中の水分量の違い、そんなほんの少しの"ずれ"で、世界はどれだけ変わることか。ちなみに気温、体温を表す英語"temperature"は、ラテン語の「適度に混ざり合った/調節された状態」を指す言葉が語源らしい。目には見えない温度は、いったい何が「混ざり合って」形づくられているのか。

目には見えない空気に、いろいろなものが混ざり、せめぎ合う。そんな数字には現れない世界が、水滴の付かないコップを前に見えてくる。観光だけではなき、"脳内漫遊"もまた、旅の楽しみだ。

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