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ウズベキスタン・タシケントへの道「路傍の蜂蜜」|翻訳者派遣会社が送るエッセイ 未知しるべ

ウズベキスタン・タシケントへの道「路傍の蜂蜜」

翻訳者派遣会社が送る、世界を旅するヤマ・ヨコのエッセイ

ウズベキスタン・蜂蜜

未知を求めて世界を旅するヤマ・ヨコのエッセイ。今回は、前回の舞台であったサマルカンドから帰国の途につくべく、首都タシケントへと向かう路上。奇跡の蜂蜜に出会いました。

中央アジアの蜂蜜は総じて美味しい。

数年前には世界的な蜂蜜のコンテストでキルギスが1位に輝いたとして、"そこそこ"の話題になった。実際、中央アジア諸国ではスーパーや商店に並ぶパッケージ商品のみ限らず、養蜂家が市場や道ばたで"手作り蜂蜜"を売っていることも多い。ずらりと並ぶ蜂蜜は花の種類によって、透明な黄色に近ものから、白濁したクリーム、茶色やほとんど黒に近いダークまで、まさに色とりどり。なかには熟成蜂蜜なるものもあると聞く。さらにその容器も、ピクルスや魚の絵が描いてあるラベルの瓶、2リットルサイズのペットボトルと千差万別だ。

2017年、ウズベキスタンのサマルカンドを出立し、首都タシケントへと向かう道にも、蜂蜜を売る露店が現れた。

タクシーのドライバーとはロシア語でしか会話ができず、私が知っている数少ない言葉を並べるしかない。しばらく沈黙が続いていた後だっただけに、「ミェド(蜂蜜)?」と聞いてみる。「ダー、ダー」と肯定し、堰を切ったようにロシア語を話し出す。最初は聞き取ろうと努力してはみるものの、早々に諦め、「ウズベキスタンの蜂蜜は美味しいよね」とだけ返す。ドライバーは後ろを振り返り、何か聞いてくる。多分、「見るか?」と聞いてきているのだろう。褒められたのがうれしいのかもしれない。サマルカンドからタシケントまでは車で5時間近くかかる道のりだし、少し休憩も欲しいと思っていたところだったので、「ダー、ダー」と承諾。

車は次に見えてきた蜂蜜売りの前で停車した。

昔のソ連映画に出てくる鉱夫のような短髪にひげを生やした男と、年の頃は10歳に満たないだろうか、栗毛色の髪の男の子が売っているのは3種類の蜂蜜。小さなスプーンを差し出し、味見をさせてくれる。何かいろいろと説明をしてくれるが、私のロシア語力ではお手上げだ。ダークな色合いのものは若干エグミがある感じで却下。透明度の高い黄色い蜂蜜はすっきりとした甘さで、もう1つは白濁したクリーム色でその味はまるでバタースコッチ!日本ではまずお目にかかれない代物にテンションが上がる。

ただ問題はそのサイズだ。

両手で瓶を抱えるように持ち上げてみると、重さはゆうに3kgはあると思われた。「もっと小さいのはないのか?」と聞くも、答えは「ニエット」(ロシア語でノー)。ドライバーは「これで5ドルは高くない」と、養蜂家のおじさんの助け舟に入る。

「いや、値段の問題ではなくて、大きさと重さがね」とロシア語でよく説明できない私は、「ちょっと待って」とジェスチャーで示し、ドライバーに頼んでトランクを開けてもらう。「荷物に入れば買うよ」。日本語だったが、理解したのだろう。私が荷物を整理し、隙間をつくるのをじっと見ている。結果、蜂蜜の大瓶はめでたく私の荷物に収まり、私は5ドルを支払い、ドライバーと養蜂家は握手をして別れた。


そういえば、私が味見をしている時、養蜂家は何かいろいろと言っていたなと思い出し、この奇跡のバタースコッチ味の蜂蜜は何の花の蜜なんだろうと知りたくなった。

「聞いてわからなくても、書いてもらえば、後で調べることもできる」。
そう思いつき、「蜂蜜」「花」「名前」とわかる限りのロシア語を並べ、「ナピシーチェ」(書いて)とメモ帳とペンを渡した。「ミェド(蜂蜜)か」と何度か確認され、私は「そう、さっき買ったやつ」(ここらへんはもう日本語)と荷物を指差す。

後日、ドライバーが書いたメモを写真に撮って、「何て書いてあるのか教えて」とロシア語堪能な友人にメールした。「これで何の花の蜜かわかる!」楽しみに返信を待つ私に届いたのは、
「『蜂蜜(ミェド)、蜂によってつくられたもの』って書いてある」というメールの返事。しかも「綴りが間違っている、正しくは...」との指摘つきで...。


私はがっくりと肩を落とした。どうやら、ミェドが何かわかっていないと思ったドライバー氏は、ご丁寧に蜂蜜の説明をしてくれたらしい。まあ、何の花かわからなくても、この蜂蜜の美味しさに変わりはない。そう自らを慰めるしかなかった。

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